ひとりぼっちのロウラ
あるところに、ロウラという少女がいました。
ロウラは、友だちがいましたが、いつもひとりぼっちでした。
幼い頃、両親に捨てられたロウラは、心から人を信じることができなかったのです。
ある日、ロウラは、ひどく落ち込んでいました。
道ばたで泣いていると、一人の青年がやって来ました。
青年はただ静かに、ロウラが泣き止むまで側に居ました。
ロウラが落ち着きをとりもどすと、青年はにっこりと笑って去っていきました。
ロウラは、なぜ自分が泣いていたのか忘れてしまいましたが、またあの青年に会いたいと思いました。
数日後、ロウラは青年に手紙を書きました。
そして、ふたりで一緒に、ご飯を食べることになりました。
美味しいご飯を食べて、楽しいお話をして、ロウラはとても嬉しくなりました。
お別れの時間になりましたが、ロウラはまた青年に会いたいと思いました。
別れた後も、青年のことを考える時間が増えていきました。
ある日、ロウラは、気持ちが抑えきれなくなり、青年に思いを伝えました。
青年は、自分も同じ気持ちだと、ロウラのことを受け入れてくれました。
ロウラは幸せでした。こんな日々がずっと続くといいと思っていました。
しかし、突然、ロウラのもとを悪魔が訪ねてきました。
悪魔は言います。
「おまえ、ほんとうにしあわせになれるとおもっているのか?」
訳が分からず、ロウラが聞き返すと、
「おまえはこころからひとをしんじられない。そんなおまえが、しあわせになれるはずがない」
と言って、笑いました。
ロウラはひどく混乱しました。今までそのことを忘れていたのに、急に不安になってきたのです。
「いまごろべつのおんなとべっどにねているかもしれない。おまえをすきだといったのも、うそかもしれない」
悪魔は三日月のように目を曲げて言いました。
ロウラは怒り、悪魔を追い出しました。そして、すぐに、青年に手紙を書きました。
しかし、いくら待っても返事は来ません。
窓から悪魔が入ってきて言いました。
「そらみろ。おれのいったとおりじゃないか。ひとをしんじてもいたいめをみるだけさ。それなら、はじめからうたがったほうがいい」
ロウラは、悪魔の言うことを信じはじめてしまいました。
不安に耐えきれなくなったロウラは、色んなところに青年の悪口を書きました。
悪魔が、「おれもてつだってやるよ」と言って、ひどい言葉を書いた紙を、色んなところに貼りました。
ロウラは、これだけすれば、彼は私が傷ついていることを分かってくれると思いました。
しかし、一向に青年からの連絡はありません。
悪魔が笑います。
「おまえはすてられたんだよ。じゃまなんだ。おまえはつごうのいいおんなにすぎないんだよ」
ロウラはその通りだと思いました。
自分は無価値で、生きていても仕方がないと。
ロウラが人生に絶望していたとき、一本の電話が入りました。
泣きながら電話を取ると、切羽詰まった声が飛び込んできました。
きみは一体どういうつもりなんだ!
ぼくが何をしたっていうんだ!
相手は青年でした。青年はひどく傷ついていました。
ロウラが、だってすぐに返事をくれなかったじゃない、と言うと、青年は、
それはきみがぼくの手紙を無視したからだろう?
それに、いつだってすぐに返事を書けるとは限らないよ。
と言いました。
ロウラははっとしました。相手が無視したことは覚えていたけれども、自分が無視したことはすっかり忘れていたのです。
ぼくだって傷つくんだ。
こんな形でなく、きみの素直な気持ちをそのまま伝えてくれたらいいのに。
青年は言いました。ロウラは、とても反省しました。悪魔に心を売り渡そうとしたことを告白しました。
きみのところに悪魔が来たんだね?
奴はこれからも来るだろう。でも、負けてはいけないよ。いつか必ず、ぼくが退治するから。
ロウラは驚きました。青年を裏切ることをしたのに、まだ一緒にいてくれることに。そして、青年が悪魔を退治してくれることに。
当たり前じゃないか。ぼくらはこれから死ぬまで一緒にいるんだ。きっとまた困難はやってくる。でも、その度一緒に解決していこうよ。
青年が言うと、ロウラは涙を零しました。こんな自分でも許されるのなら、人を信じてもいいのかもしれない。そう思いました。
ぼくはきみが好きだ。
だから一緒に広い世界を見たいと思っているよ。
ロウラは頷きました。青年と同じ気持ちでした。それが、本当の、ロウラの気持ちでした。
悪魔がつぶやきます。
「おぼえてろよ。こんかいはみのがしてやる」
そう言って、窓から逃げていきました。
ロウラは、少し悪魔のことが怖くなくなっていました。
そして、世界を旅するための準備を始めました。
ロウラはもう、ひとりぼっちではありません。